十和利山熊襲撃事件【本州最大】日本史上3番目の獣害

今回は十和利山熊襲撃事件についてです。
今から約5年前に秋田県の山中で起きたツキノワグマによる獣害事件。4人が死亡、4人が重軽傷を負うという日本史上3番目と最悪の被害となりました。山にタケノコ採りや山菜採りに入った人が次々に襲撃されたのです。

日本史に残る獣害事件

三毛別羆事件
石狩沼田幌新事件
十和利山襲撃事件

三毛別事件、石狩沼田の事件はどちらも北海道で起きたのに対して十和利山は秋田県。本州で起きたクマの被害としては最悪のものでした。

十和利山事件の概要

2016年(平成28年)5月から6月にかけて。秋田県、鹿角市の十和田大湯(とわだおおゆ)の十和利山(とわりさん)山麓で起きた。
鹿角市十和田大湯字熊取平の竹藪でタケノコを採っていた地元の男性(79)が行方不明になった。
これが最初の被害だった。

最初の犠牲者

翌21日の朝、山の中で男性の遺体が見つかる。顔や半身に爪痕や噛み痕があった。獣によるものだと認められた。
同日、60代の夫婦がタケノコ採りに山に入り、ツキノワグマと遭遇。妻が腕をかまれてケガをしたが、夫が反撃した為に熊は驚いて逃げた。

ふたつの事故をうけて警察は熊が出没した場所に注意を促す看板を設置。
しかしそれもムダに終わる。翌22日に2人目の犠牲者が出たのだ。

なおも続く死亡事故

5月22日朝、秋田市の夫婦が山に入り、赤毛の熊に遭遇。夫(78)が熊に襲われながら「逃げろ」と叫んだので妻(77)はその場から逃げ出した。
6時間後、夫の亡骸が山中で発見される。頭部や腹に噛み傷があった。妻は無事だった。

さらに別の女性が熊に襲われてケガをした。東北森林管理局は森林を6キロにわたって通行止めにし、周辺で注意喚起を行った。
しかしこれも大きな抑止力にはならず、山に入る人が続いた。


5月23日、青森県十和田市の男性(65)が山に入り行方不明に。

5月26日朝、田代平で青森県の男性が熊に遭遇。尖らせた笹竹で熊の顔を攻撃し、撃退。無傷で生還した。

5月29日朝、十和田大湯字、田代平の山林でタケノコ狩りをしていた青森県の女性(78)が尻をかまれた。同行していた息子がナタで撃退。女性は軽傷を負ったが命に別状なし。

5月30日、23日の朝から行方不明になっていた青森県の男性(65)が変わり果てた姿で発見された。遺体はかじられるなどして損傷が激しかった。

この時点ですでに3人の人間が命を落としている十和利山。
ふつうなら怖れて人足は遠ざかるものだが、事件は続いた。

6月7日、十和田市の女性(74)が行方不明になる。
6月10日、10:40ごろ、鹿角田市十和田大湯の山林で女性の遺体が発見される。
同日、猟友会が入山。野生のメス熊を射殺した。

熊撃ち名人の登場

6月10日14時ごろ、鹿角連合猟友会の斎藤良悦(61)をはじめ4人が熊を追い詰め、一匹のツキノワグマを射殺。
斎藤は秋田八幡平クマ牧場事件で人を襲ったヒグマたちを討ち取ったクマ撃ちの名人。

3日後、クマの司法解剖が行われた。胃の中からは人体の一部が見つかった。

専門家たちが集められ、事件を検証する間、秋田県知事が入山自粛を呼びかけた。山に入るのは控えてくださいとお願いしたのだが、ムダに終わる。

6月15日、4人が熊取平から山に侵入。熊に襲われてひとりが軽傷を負った。

さらに6月30日大清水で男性(54)が熊の襲われて頭に重傷を負う。

NPO法人日本ツキノワグマ研究所の米田和彦氏はオスのツキノワグマの仕業と判断していた。この十和利山における一連の事件は複数の熊によるものであり、射殺されたメス熊はたまたま人の遺体を見つけて食べていただけで、襲ったのは別の熊である可能性が高いと。

犯人は5頭いる?

米田氏の見解では犯人と目される熊は少なくとも5頭はおり、うち1頭のオス熊が3人を襲った可能性があるという。この1頭は「スーパーK」と名付けられた。
スーパーKが1人目と3人目の被害者を、スーパーKの母親とみられる赤毛のメス熊12才が2人目の被害者を襲ったとみられる。加えて26日に男性を襲ったのは傷のある別のオス熊で30日に男性を襲ったのは母子熊だろうと推察された。

スーパーKは9月に捕獲檻に入っているところを発見、駆除された。体重84キロ。推定年齢は4才。
さらに母子熊のうち、2頭の子熊を駆除。母熊は人間を襲っていないと判断されて駆除はされなかった。

なぜ事件は起きたのか?

この事件が起きた2016年は全国的に熊の出没件数が急増している。前年の2015年に熊の好物であるブナの実が豊作だったことから出産頭数が増えたためと思われる。
熊はタケノコを好んで食べる。食べ物がある場所に棲みつき、遠く離れることはない。
そこに人間がタケノコを求めて立ち入り、遭遇した…。

本来、熊は人間を襲うことはありません。

熊は警戒心がとても強い生き物。人間を怖れているために、姿をみれば逃げていくのがふつうですが、中には好奇心から近づいてくる個体もいます。こういう時にどうすればいいのかはヒグマ関連の記事でさんざん書いてきたので割愛しますが、いきなり大声をあげたり急に走って逃げたりするのは逆効果。

熊が人間を怖れるのは人間を「得体のしれない生き物」だと思っているから。
それが何かのトラブルでいちど人間の血の味を知ってしまうと「ものすごく弱くてかんたんに捕れるエサ」だと認識してしまう。熊は学習能力が高いので人間を食べると再び人間を襲うようになります。だから人間を襲った熊は駆除される決まりになっているのです。

この熊の恐ろしい性質が分かるのが三毛別羆事件。
この「クマの動物研究」でも過去にとりあげました。

十和利山事件でも熊がなんらかの理由で人を襲い、その遺体を熊たちが食べたことからそろって人を襲うようになったとみられています。

それにしてもなぜこれだけたてつづけに人が襲われているにも関わらず、人々は山に入ったのでしょうか?
その背景には格差の問題があるようです。

地域住民の生業

地域住民の高齢化、地域格差が根底にあるようです。タケノコ採取を生活の糧とする者が元々おり、その地域では他に収入をあげる方法がなかったのではないかとみられています。

熊は恐ろしいがお金のためには仕方がないという人もいるでしょうし、熊という生き物の怖さをよく分かっていない人もいるのかもしれませんね。

(北海道をのぞいて)全国的に熊という生き物の恐ろしさは人々に認知されていないなというのがわたしの印象です。野生の熊と遭遇して、スマホで写真をとりTwitterでテディベアとつぶやく強者もいるくらい。この「クマの動物研究」を読んでくれているあなたは…よくわかっていますよね?


十和利山熊襲撃事件について書かれた書籍です。もっと詳しく知りたい場合はどうぞ。


▼十和利山事件の考察をしています。
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このクマの動物研究では他にも世界各国で起きた熊の事件を扱っております。よければご回覧ください。
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