クマの動物研究

世界の猛獣事件を研究中

秋田八幡平クマ牧場で起きた悲劇【アンビリーバボーでも紹介された平成の大事件】

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今から10年前と日本国内でおきたヒグマ事件としては比較的あたらしい方です。秋田八幡平クマ牧場事件。テレビで見た記憶があるよという方もいれば、過去の人気番組「アンビリーバボー」で観たことあるよという方もいるかもしれません。ここでは事件を知らないことを前提にいちから解説していきます。

 

 ※一部痛ましい表現がありますので苦手な方は読まないでください。

秋田八幡平クマ牧場事件

 

2012年、4月20日ー。

秋田県鹿角市、八幡平クマ牧場。

今はもうないその施設で、血の気も凍るような恐ろしい事件が起きました。

 

園内で飼育されていたヒグマが6頭脱走し、2人の女性飼育員が死亡。

檻の中に入れられていた筈のクマがなぜ園内に放たれたのか?

何が起きたのかをみていきます。

 

動物園で起きた悲劇

 

当時、クマ牧場は冬季休業中で客はいなかった。

園内にいたのはクマたちの世話をする飼育員が3名。

女性ふたりに男性ひとり。

 

牧場は業績不振を理由にこの年の秋に封鎖される予定だった。

十分な収益がないために牧場内は老朽化がすすみ、従業員の数もぎりぎり。

30頭ちかくの熊を高齢の従業員がたった3人で管理していた。

 

朝8時ごろ。

園内で女性の悲鳴があがった。

 

離れたところで作業していた男性従業員が何事かと駆けつけると目の前に信じられない光景が。

 

ヒグマがいたのだ。

運動場にいるはずのヒグマがなぜ園内を闊歩しているのか。

彼はヒグマの傍に倒れている仲間の姿に気がついた。襲われたのだ。

 

もうひとりの女性従業員の姿をさがす。無事ならいまの悲鳴をきいて駆けつけてくる筈なのに現れない。

何が起きたのかを理解した彼は110番通報した。

 

このとき、女性飼育員ふたりに襲いかかったのはクマ用の運動場から脱走した体長150センチ程度のヒグマだった。

 

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ヒグマとは

 

ヒグマという生き物がどれだけ強い存在なのかは、この「クマの動物研究」でもたびたびとりあげてきました。

陸上では人間をのぞいておよそ天敵がいない、最強の生き物。

 

日本では野生のエゾヒグマが北海道に生息しており、100年前には1頭のヒグマに8人が惨殺されるという他に類をみない恐怖のみけべつひぐま事件、5人がなくなった石狩ぬまたほろしん事件などが起きています。

 

それらは野生のヒグマによるものですが、今回は飼育されたヒグマ。

それも最悪なことにー。

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複数のヒグマが逃げ出し園内に

 

69歳の男性従業員から通報を受けた救急と警察が現着。事態を把握するとクマの射殺にむけて動き出した。

 

男性従業員は警察だけでなく近くにいた猟師も呼んでいた。皆で国道側から牧場の中を見てみると、倒れたままぴくりとも動かない飼育員の姿を確認。その傍らをうろつくヒグマたちの姿も。そう、逃げ出したのは一頭だけではなかったのだ。

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運動場に収容されていたヒグマたちが、次々に塀をのりこえている。その光景を目の当たりにした人間たちは愕然とした。

 

運動場の塀は4.5メートル。

立ちあがると3メートルになるヒグマでも乗りこえることは不可能なはず。

何故そんなことができるのか?

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射殺命令が出る

 

とにかく女性たちを救出することが最優先事項であり、秋田県警は正午ごろ、地元の猟友会に対してクマの射殺命令*1を発出。連絡をうけて駆けつけたクマ牧場の経営者が男性従業員から経緯を聞いている傍らで、クマ撃ちの名人といわれた猟師を含め、腕利きのメンバーが準備を整え、そろって園内に足をふみいれた。

 

まず女性飼育員の近くにいたヒグマを射殺。次に運動場近くにいたもうひとりの女性をヒグマ二頭を殺して救出。すぐに救急搬送されたが、ふたりともすでに絶命していた。

残る三頭も射殺され、逃げ出したヒグマはこの六頭で全部だと確認された。事態が収束したのは夕方四時ごろだった。

 

ヒグマが脱走した理由

 

高い運動場の壁を、なぜヒグマたちは軽々とのりこえることができたのでしょうか。

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それは運動場の隅にできた雪山が原因でした。園内の除雪作業を担当していた男性従業員が集めた雪を運動場に捨てていたと証言。運動場の隅はプールになっていて、その水で雪を溶かそうとしたが実際は溶けずに山となり、ヒグマたちが脱走する原因になってしまった。

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男性従業員は当時69歳。ひとりで除雪作業は酷である。ほかに男手といえば牧場の経営者だけで、こちらも若いとはいえない。

しかも経営者は他に仕事をもっており、牧場には月に数回しか来ていなかった。まともに施設を管理できていなかったのだ。不備は他にも。

 

八幡平クマ牧場の実情

 

牧場ではやせ細ったクマたちが何匹も確認されている。

広くない敷地に何匹も収容されていることで、エサが奪い合いのようになり弱い個体は満足に食べることができなかったのだ。通常では考えられない痩せたクマたちの姿に、動物愛護団体は牧場に対してたびたび是正勧告をしていた。

 

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エサのことだけではない。檻も痛み、客からも直した方がいいと指摘されるほど牧場は老朽化が進んでいたが経営難で修繕費などない。専任の従業員も知識人も充足しておらず、クマを十分に飼育できる環境ではなかった。

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人災が原因のクマ事件

 

これらの事実から牧場の経営者と、除雪作業を怠りヒグマを逃がす直接の原因を作った男性従業員の2人が※刑事責任を問われることになった。

※業務上過失致死。

 

警察は牧場が十分な人材と資材を確保できなかったことと、園の管理が徹底されていなかったことが、事件の原因であるあの雪山に繋がったと判断した。2人の人間と六頭のヒグマが命を落とすことになったこの悲劇は、まぎれもなく「人災」であると。

 

この事件がトドメとなり、秋に閉園予定だったクマ牧場は6月に閉鎖になりました。後に残ったのは23頭のクマたち。秋田市は最初、クマたちのエサを減らして自然淘汰させてはどうかと考えていました。

(人災に輪をかけたひどい話ですが、犬や猫がそうであるように引き取り手がいなければ処分するしかないのです)

 

幸いにもツキノワグマに関しては茨城と高知の施設が引き取りを申し出、残りは北秋田の阿仁熊(あにくま)牧場が全頭うけいれを表明。こうしてクマ達は生き延びることができました。

 

 

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*1:警察官職務執行法第四条