動物事件、今日はジェヴォーダンの獣です。
何の獣?
分からん。正体不明なのだ。
ジェヴォーダンの獣は
人を喰らうもの、マンイーターとして世界史にその名を刻んでいる。
マンイーターのワーストランキングで第6位、113人の被害者*1を出した凶悪な獣。
引用:ウイキペディア(ジェヴォーダンの獣)
世界史に残る事件
18世紀のフランスに突如として現れた獣に88人が食い殺された。獣の正体が何であったかは不明でジェヴォーダン地方で起きたことからその名がついた。
それはオオカミに似た生き物だったとも。1764年から1767年の3年間にわたりマルジュリド山地周辺に現れ、およそ100人を襲った。
そんな大事件なのに何の獣か分かってないの?
未確認生物説、またはフランスによる陰謀説もあります。
18世紀後半のフランスでは各地でオオカミ被害が相次いでいた。これを利用して誰かが獣をけしかけて事件を起こしたのではないかと。
今日はそんな謎だらけの「ジェヴォーダンの獣」を解説。
一部に過激な表現や描写がありますので、苦手な方は閲覧を控えて頂くようお願いします。
ジェヴォーダンの獣
ジェヴォーダンの獣には以下の特徴がある。
- 牛と同じ大きさ
- オオカミに似ている
- 長い尾はライオンのよう
- 小さい耳・巨大な犬歯
- 狩猟犬のような頭
- 全身が赤毛
- 黒い縞が背にある
この獣は具体的に何をしたの?
事件の始まりは
1764年6月1日
ランゴーニュからきた女性が樹々の間からオオカミに似た動物が現れるのをみた。獣は女性の方をむき、まっすぐに走り出した。
しかし農場の雄牛たちによって追い払われた。
6月30日
14歳の少女ジャンヌがランゴーニュからそう遠くない村の近くで行方不明になり、翌日発見された。
遺体からは内臓が消えていた。
な…内臓が?
これがこの事件の特徴なんだ。猟奇的な喰われ方をしていることから悪魔の仕業ではないかと囁かれた。
野性の捕食動物がまず狙うのは噛みつきやすい足やのどです。しかしこの事件では法則を完全に無視している。
頭部はくだかれ、食いちぎられていた。
家畜には見向きもしていない。まるまると太って美味しそうな牛が犠牲者と同じ草原にいたのに、最初から人間を標的にしていた。
その後、ジェヴォーダンの獣の犠牲者は増えていきます。
最初の犠牲者の少女同様、首と胴体が離れていたり、全身バラバラだったり。どの遺体の凄惨な状態だったという。
犠牲者の正確な人数は未だにわかっていないが…。
確認された記録では198回の襲撃で88人が死亡*2、36人が負傷したという。
獣が好んだのは女性と子供。
農場で少人数で仕事をしていたために襲いやすかったのではないか、対して男たちは鎌など武器になりえる農具をもち、集団で作業していたために狙われにくかったのでないかと考えられている。
引用:ウイキペディア(ジェヴォーダンの獣)
魔物討伐にのりだす王家
1765年1月12日
事件が続く中、ジャックという少年が6人の友人と共にこの獣に立ち向かった。
子供の出る幕じゃないぞ、ひっこんでなさい!
少年たちは見事、獣を追い払うことに成功。
成功したの? あら…。
この話に興味をもった時のフランス王シャルル15世が彼らに300リーヴを与えた。
ちなみに300リーヴは今の貨幣価値に換算するとだいたい60万円くらい。
さらにシャルル王はオオカミ狩りのプロ、ジャンを呼んでジェヴォーダンの獣を討伐するよう命じた。
ジャンは息子のフランソワと共にクレルモンに向かった。
現地に到着したのは1765年2月17日。
彼らはオオカミ狩り用によくトレーニングされた8頭のブラッドハウンド犬を連れて森に入った。相手がオオカミだと信じこんでいたから、この地方にすむヨーロッパオオカミを片っ端から狩りはじめた。
引用:ウイキペディア(ヨーロッパオオカミ)
オオカミと決まったわけじゃないんだよね?
ジェヴォーダンの獣の襲撃はやまずに、犠牲者の遺体とオオカミのはく製だけが増えていった。
暗躍するジェヴォーダンの獣。
まるで人々をあざ笑うかのように死体を増やしていく。
1765年6月、しびれをきらした王は部下を選んで現地に赴かせた。火縄銃の運搬係で、狩りの名人であったフランソワ=アントワーヌ中尉。
お前ら役に立たないからクビね!
!
こうして狩人親子と交代して、中尉が率いる部隊が前線にたつことに。
軍も手を引いたモンスター
1765年9月20日。
中尉は体長1.7m、体高80cm、体重60㎏の巨大な灰色オオカミを仕留めた。オオカミは確かに巨大だと認められた。
中尉はこう公言した。
われわれはこの手でジェヴォーダンの獣をしとめたことを宣言する。これと比較される大きなオオカミをもはや見ることは無い。
ーアントワーヌ中尉
おお、ついに退治されたのか…!
オオカミははく製にされて王の住まうヴェルサイユ宮殿に送られた。中尉は英雄として迎えられ、称号や勲功、報奨金をたんまり受け取った。
あれ…でも獣って赤毛だったんじゃ…。
シャルル王はジェヴォーダンの獣は討ち取られたとし、事件の収束を告げた。
▲シャルル15世
さすが我がフランス軍、さすがわしじゃ!
待ってよ、それは本当にジェヴォーダンの獣なの?
1765年12月2日。
人々が安心して生活を送っていた中、再び獣が現れた。
ふたりの子供が重傷を負う。
その後もたてつづけに人が襲われ、12人以上の死者が出た。
やばいよ王様! 何とかして!
シャルル王は動かなかった。ジェヴォーダンの獣はすでに討伐されたものであり、2度と現れるはずがないと軍隊を送ることはしなかった。
問題はもう解決済みだ! 後は知らん!
ええええええ
孤立したジェヴォーダン
王室に見放されたジェヴォーダン地方の人々。
教会にこもり神にすくいを求めるものの、その最中に獣が現れて村人が喰われる始末。
人々の恐怖は極限に達していた。
だが、この恐ろしい襲撃事件はある日いきなり終焉を迎えた。
終焉と疑惑の英雄
ひとりのハンターが獣討伐に名乗りをあげた。
ジャン・シャストル。
地元の猟師であった彼は他の猟師たちと獣退治に出た。家の伝統だからと、狩猟の前に座って聖書を読み、祈りはじめた。
1767年6月19日。野でシャストルが祈っていると、どこからともなく例の獣がやってきて彼をじっと見つめた。
獣は祈りが終わるのを待っていたという。
シャストルは聖なる銀弾を猟銃にこめて放った。弾は大きな体を撃ちぬき、赤い悪魔は絶命した。
事件はこうして収束した。
最後の祈りの部分については眉唾の可能性が高いようです。
でも獣は出なくなったんだよね?
ああ、シャストルは英雄ともてはやされたが、同時に彼を疑問視する声もあった。
シャストルが訓練した獣をけしかけて人々を襲わせ、自分で撃ち殺したのではないか、と。
疑惑の英雄か
ジェヴォーダンの獣とは何なのか?
結局ジェヴォーダンの獣とは何だったのか?
いくつかの説があります。
ただのオオカミの襲撃が誇張された、オオカミ男、魔術で呼び出された魔物などオカルト的な説まで様々。
現代の研究者らには主にみっつの可能性があげられています。
- 人喰いオオカミの襲撃
- 他国からもちこまれたハイエナ
- オオカミと犬の交種
引用:ウイキペディア(ヨーロッパオオカミ)
人喰いオオカミの可能性
野性のオオカミはふつう人を襲いません。そもそも人を避けて暮らしているのでアナ雪のように人間を見つけて追いかけるというような場面は現実にはありません。
エサになる動物がなくなった場合のみ家畜に手を出すことはありますが、人間は基本的に捕食対象外です。
ハイエナの可能性は?
この時代、フランスにはハイエナは存在していませんが、アフリカから密輸入された可能性はあります。ハイエナの中には人間を襲う種類もあり、赤毛の個体も存在する。
訓練すれば飼いならして人を襲わせることもできる。
ハイブリッド種の可能性も
オオカミと犬の混血、ハイブリッド犬。
オオカミを調教することはできませんが、犬であれば可能。オオカミの攻撃性と犬の従順性をあわせもつ生物の可能性は否めません。
ジェヴォーダンの獣の正体については今日にいたるまで論争がつきることはありません。被害者がこれだけ出ているにも関わらず確かなことが何も分かっていないのです。
陰謀説や未確認生物、絶滅種による仕業ではないかという説から伝説と化しています。
あなたは何だと思いますか?
引用:虚兎のpalette
▲ブロガー虚兎さん作画・ジェヴォーダンの獣。
赤い毛におおわれた魔物。女子供がひとりでいるところを狙って現れ、高い確率で仕留めているためにはっきりと姿を目撃した者が少なかった。
虚兎さんが書いた米軍の衝撃的な実験の記事。
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